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Aurelia limbata
L-002 | キタミズクラゲのポリプ(5個体) | ¥2,400(送料別) |
L-002CH | キタ ミズ クラゲのポリプ(チルド便) | ¥3,400(送料別) |
ミズクラゲの近縁種、キタミズクラゲをご紹介します。
学名Aurelia limbata、limbaraは例によってラテン語で縁取りがある、という意味。傘の周辺が褐色に色づく特徴を表しています。
四つ葉のクローバー型の生殖腺などは近縁のミズクラゲに似ていますが、より大きくなり(30センチ以上)放射管が網目状に連絡し(ミズクラゲではつねに枝分かれするのみ)、縁弁がミズクラゲの倍の16に分かれます。
とにかく美しいクラゲですが、ときに春から夏にかけて沿岸部に大群を作って押し寄せて漁業被害を出しています。寒冷な海の生物相の特徴どおり、多様性は熱帯の海にはかなわないけど栄養豊富なせいで物量がとんでもなくて巨大化したり大群化するので海洋資源も豊かになる一方、クラゲ被害も甚大になるようです。
昔図鑑ぐらいしかクラゲの情報がなかったころに「放射管が網目状に連絡する」って記述を見てちょっと興奮したものです。こういう美人と出会うにはどこ行って何をしたらいいもんだか。春先の北の海に行ってダイビングをする、というのが一つの方法ですが、当店が提唱するのは例によって「ポリプから育てる」です。
大きめの美しい鉢ポリプ
ポリプは触手16本の典型的な鉢(はち)ポリプ、いわゆるスキフラで、ミズクラゲのポリプよりはかなり大きめになります。よく増える飼いやすいポリプで、ブラインシュリンプを喜んで食べてくれます。
本来ならばどんな飼い方でも自由に楽しめるんですが、たった一つ、このポリプには弱点があって、飼い主はほんのちょっとだけ不便な思いをすることを強いられるのです。
暑いのが極端に苦手
ポリプの飼育の上限温度が摂取20度、これ以上の温度では短時間でも触手を縮めてしまい、長時間晒されるとどろどろと溶けてしまいます。
北国育ちだとか平均より少し皮下脂肪に恵まれているとか様々な理由でエアコンの設定温度にワガママなひとがいらっしゃいますけれども、それよりさらにワガママ、人間が一般的に快適とされる室温よりは低い温度でしか生きて行けません。
冬は暖房のかからない部屋で飼育するとしても、春から秋にかけては保冷庫や冷蔵庫などがどうしても必要です。飼育適温は10~18 度くらいが安全圏。近縁のミズクラゲならストロビレーションが起こってしまう温度です。
しかし、キタミズクラゲのポリプでは、そんな心配は不要。
ストロビレーション条件
このポリプ、ちょっとやそっとではストロビレーションを見せてくれません。
水温の低下がきっかけになるのはミズクラゲと同じなのですが、まずその温度が低くて、おそらく摂氏5度前後で、かつ数ヶ月の期間が必要とのこと。
おそらく北の海の、長い冬が明けた短い春を狙った適応なのでしょうが、それにしても長い。似たような温度環境のキタユウレイクラゲの方は低温さえあれば比較的短期間にストロビラを見せてくれます。
「冷却期間」の間に温度が上がってしまうとリセットされてしまうのはミズクラゲと同じらしいので、安定した冷却が必要。店主ももう何年かこのポリプと付き合っていますがいまだストロビラ化の兆候さえ見たことがありません。
ただし紛らわしいやつなら、あるけど。詳しくは次項で。
鬼ポリプ問題
高温に弱いポリプについてはキタユウレイクラゲでご紹介した通り、 冷蔵庫海水を多めにしてポリプと給餌を控えめにする飼育方法がひとつの解決策なんですが、キタミズクラケの場合はよく増えるのが災いして、いつの間に個体数が殖えすぎて慢性的に餌が足らない、という状態に陥ります。
そんなときに見られるのが下の写真の現象で、一見ストロビラ兆候に似ていますがポリプの足元だけが伸びているのがお分かりいただけますでしょうか?
これ「鬼ポリプ」と俗に言われておりまして、周辺のポリプ、普段は共食いしない自分と同じ遺伝子を持つクローンの兄弟たちを食べようとしている姿です。もちろんこうなってしまうと満腹するまで共食いを続けてしまうので飼い主はあわてて餌を与えることになるわけです。これはキタミズクラゲだけでなくおなじみミズクラゲでも起る現象なのですが、夏場だとポリプが小さくなっちゃうし冬はストロビラになるほうが早かったりするので観察する機会はキタミズクラケよりは少ないかも知れません。
少数個体を絶食させたまま冷蔵庫に入れて「バックアップ」をつくることがありますが、キタミズクラゲの場合は一つの容器に一匹ずつ、が安全かもしれません。
インドメタシン・チャレンジ
ストロビラ化に関する話題をもうひとつ。
これまたミズクラゲでの研究でわかっていることなのですが、低温以外にもストロビレーションを誘発する化学物質があるというのが近年話題になっています。
共通しているのはインドール環を持つ化合物で、試薬として入手するのが困難なものが多いのですが、その中に筋肉痛などに処方されるインドメタシンも含まれていて、これなら入手可能、実際に塗り薬を薄めて海水に溶かしても短期間(一週間とか!)でストロビレーションが見られたケースもあるとか。
ただこの手の化学物質、ごくごく微量の痕跡的な量でも常温でバンバン変態が起こってしまう、ということなので、逆に普段の筋肉痛に使ったあとの手洗いが不十分で夏の盛りにエフィラが大量に出てしまう、なんていう恐ろしい事態になる恐れも。塗り薬に含まれているメントール、つまりすーっとするハッカ油の成分は刺胞動物には麻酔として働きます。濃度やその他の成分のせいでポリプが溶けてしまうこともありますので、お試しは自己責任で。
そんな理由もあって、当店のエフィラはすべて、薬品を使わずに伝統的な低温処理だけで誘導している「無添加」のエフィラです。コスト的にはね、薬品処理のほうが安くつくかもしれないけれど、どうせウチは保冷装置必要なんです、キタミズクラゲたちのために。
蛇足ですがインドールって、すごく薄めるとジャスミンの香りだけれど濃いと悪臭になる、というあれですね。香水として使われることもあるそうですから、水槽の近くで香水を使ったりジャスミンティーを淹れたりするとポリプが一斉にストロビラになる、なんてことは・・・ないと思うけど、あったら怖い話ですね。
飼育できる環境と余裕があれば
温度調整が可能な保冷庫やワインセラーがあれば最高ですが、夏場だけ冷蔵庫の野菜室でも。電力に頼らず一年同じ温度の裏山の湧き水を利用できるとか夏でも氷が溶けない氷室(ひむろ)があるとか、そういった環境に恵まれている方にも是非参加していただきたいのです。
一部のクラゲを除いて、このキタミズクラケクラゲのようなマニアックな種のポリプが流通に乗ることは(当店をのぞいたら)あまりありません。機会を逃してしまうと今度いつ出逢えるかわかりません。
自然採集に挑戦した方ならお分かりかと存じますが、クラゲのポリプって飼い続けるのが比較的楽な種類でも、最初に一匹を飼育環境に慣れさせて定着させるのって結構難易度高いのです。飼いならされたポリプって人類の宝です。もうこの辺のポリプについては、所有していると言うより「お預かりしている」感覚でして、ちょっとだけの誇りと責任を抱いて維持しているのです。ただ、一般家庭の弱小設備なので、大規模な停電とか冷蔵庫の故障なんかに弱い。
こういう生き物を維持する方法は「みんなでちょっとずつ持つ」のが一番です。植物の種を保存するシードバンクみたいに、国や研究機関が予算を出して施設を作ることなんかより、少しでも多くの人が興味を持って、短期間でも手元に置いてみる、を繰り返していくほうが低予算で、なにより楽しい。無料の再チャレンジプログラムの対象ですので(ただし冬季輸送のみ)気楽に参加していただければ幸いです。
そうそう、もしレア物ポリプ入手しちゃったりしたら、差し支えなければ当店にご提供いただけたら幸いです。うちの子たちのいくつかは実はそんなふうに商品化されてきているのです。
冬季販売、またはチルド便で
冬季は通常便で、春から秋にかけてはすこし割高ですがチルド便でお届けします。
L-002 | キタミズクラゲのポリプ(5個体) | ¥2,400(送料別) |
L-002CH | キタ ミズ クラゲのポリプ(チルド便) | ¥3,400(送料別) |
到着時に冷えた状態で届きます。あわてて開封しないで、じっくり飼育温度に慣らしてください。
例によってこれが正解という飼い方はありません。最初は数個体ずつグループに分けて、条件を変えて飼育する事をお勧めします。