日本で発見された淡水クラゲは、マミズクラゲだけじゃなかったんです。
イセマミズクラゲCraspedacusta iseana(Oka & Hara)
一度だけ記録された幻のクラゲ
日本で初めて発見された淡水クラゲは、マミズクラゲではありませんでした。1921年(大正10年)、三重県津市の師範学校校内の井戸にて、原孫六氏が発見、当時東京高等師範学校教授だった丘浅次郎氏との共同研究により新種Limnocodium iseanaとして記載されたのが初めての記録。その後再発見されることもなく、井戸も火災によって失われ絶滅したと考えられている。
マミズクラゲC.sowerbyiとの相違点
別種であることは今は亡きヒドロ虫の大家、内田亨他により再確認されている。(Uchida 1955)
- 触手は128本以下
- 平衡器に管状部がなく、(sowerbyiでは細長く縁膜中に伸びる)
- 触手上の刺胞の配列様式が異なる(sowerbyでは乳頭状の突起の上に群がる)
うわー、ケンビキョウ的。
右がイセマミズクラゲの触手。左はL.kawaiiの触手だけど、マミズクラゲもだいたいこんな感じ。
イセマミズクラゲの平衡胞。小さい丸が平衡石。図は2枚ともOka&Hara(1921)より。
イセマミズクラゲは絶滅したのだろうか
平衡胞、刺胞とも顕微鏡的な差異である。見た目はマミズクラゲと変わらないのなら、現在同定されなかったマミズクラゲの発生報告の中に、イセマミズクラゲが含まれているかも知れない。我家のマミズクラゲも、もしや・・・と思ったけれど、残念ながら、sowerbery種の特徴にバッチリ一致しておりました。
これはうちのマミズクラゲ(ごく普通種)の平衡胞。縁膜中に平衡胞が左上方に伸びているのがわかる。Gen-Yu’s filesの佐々木氏撮影。
ユメノクラゲAstrohydra japonica Hashimoto 1981
これぞ幻、夢のクラゲ
今一番会ってみたいクラゲである。なにせ、誰も成体を見たことがない、自然界で観察されたことがない。一度だけ、実験室内で4匹が発生した記録があるだけ。
触手のあるポリプ
ポリプは1974年11月、静岡県川根町で橋本碩により発見され、1981年に新属、新種の淡水ヒドロポリプ、和名ホシノヒドラとして記載された。このポリプには体高が0.2mmから0.3mm、マミズクラゲのポリプに比べてもなお小さい。たる型で直立、コロニーを形成しない。刺胞を持つ擬触手があり、非常に小さなイソギンチャクのような形である。マミズクラゲ同様フラスチュールを出芽するが、その速度は速い(時速3ミリメートル、間違いではない。マミズはもっと遅い)。
10年目のクラゲ
橋本(1985)によれば、はそのポリプを10年間飼育し続けた1985年5月、ポリプ2個体にクラゲ芽が形成され、4個体のクラゲが分離したという。これがユメノクラゲである。
触手はブラシ状
このクラゲもまた小さい。遊離直後のマミズクラゲの直径が1mmなのに対し、0.5mm程度。触手は最初は4本、針状の突起を持つ。しばらく生存したが1.35mmを越えることはなかったという。橋本先生はマミズクラゲでは1年以上生存させたというツワモノゆえ、ユメノクラゲの飼育はさらに難しいということであろう。うーん、挑戦してみたい!
ユメノクラゲ。Hashimoto(1985)のスケッチより模写。