ポリプ

マミズクラゲの飼育はほとんどの時期、このポリプとの付き合いです。奴等は小さい、動かない、目立たない。でも餌を与えれば食べるし、増殖もするのです。


撮影:Gen-yu氏


ポリプ(polyp*)とは?

刺胞動物には基本型としてクラゲ形とポリプ形がある。クラゲは浮遊生活に適応し、ポリプは着生生活に適応している。いわゆるクラゲ、(鉢虫綱、箱虫綱、ヒドロ虫綱)は原則として**この両方を持ち、サンゴやイソギンチャク(花虫綱)はポリプ形しかない。

とにかく、イソギンチャク的なものを想像して頂きたいのだが、形態もサイズもまったく違う。

*polypの語源は、ギリシャ語で「多数の足を持つ」polypoisで、本来頭足類のタコを指していたが、触手を持つポリプを逆立ちしたタコに見立てたものらしい。普通クラゲのポリプって、触手があってイソギンチャクみたいな形なのです。
**例外はあるもので、淡水ヒドラなどポリプ形しかないヒドロ虫綱はクラゲを持たずに有性生殖するし、クラゲがポリプから離れずに有性生殖するやつやポリプが集まって浮遊生活するカツオノエボシやギンカクラゲなど、掟破りなやつが多い。


形態・サイズ

「ポリプはコケシ人形型で頭部は球状、触手を欠く。頭部には大型刺胞が配列されており、それらの刺針が短い刺のように突き出ている。刺胞は貫通刺胞一種のみ。頭部の頂端中央に口があるが、膜状の口唇により常時閉ざされている。」(橋本1987より)
多くの場合、基質に対して傾斜した形でくっついている。あんまり上下左右ということには頓着しないらしい。サイズはとにかく、小さい!最大でも1mm、通常0.5mmくらい。しかもほとんど透明ときてるから、せめて虫眼鏡がないと見えない。
左上が口。肛門はなく、口から食べて口から出す。胃袋以外の組織がなくて、単純な袋状。


生態

なにせほとんど動かないから、食べることと増殖することぐらいしかないのだが、光に対して頭部(口がある方)を動かすのが観察できることがある*。固着した場所から動くことはない。自然界では水棲貧毛類(イトミミズ、ミズミミズか?)棒腸類(プラナリア?)若齢のユスリカ幼虫を捕食しているらしい。(橋本1987)
飼育下では自分と同じサイズのブラインシュリンプを食べる。

*観察したことはないが、空腹時に頚部を交互に湾曲または回転させる運動を行うという。(橋本1987)

捕食の様子。


無性生殖その1、ポリプの出芽

ポリプの根元に近い部分に新たな口が出来、次第に大きくなって母体にくっついたままの新しいポリプができる。このように出来たポリプは母体から離れることなく、、コロニーを形成する。通常3個体ほどのコロニーを形成している。つまり、頭が複数あって、身体が繋がっている状態。上の連続写真は2個体のコロニーだが、胃腔はなかで繋がっていて、まさに一蓮托生。


無性生殖その2、フラスチュールの出芽

コロニーがある程度大きくなると、フラスチュールfrustuleを出芽する。ポリプは動けないので、この方法によって新しいコロニーを作るのだが、これがまたちょっとしか動かないのだ。詳細は次のページで。

わかりにくいが、左上にあるのがまさに出芽中のフラスチュール。ポリプの影になっている。


無性生殖その3、クラゲの出芽

温度などの条件がそろうと、ポリプはクラゲを発生させる。「おや、学校で習ったクラゲの発生と違うぞ」と思われた方、まさにそのとおり。一般に紹介されることの多い海水産のミズクラゲでは、ポリプ(スキフラとも称する)の上部から、一度に数個体のクラゲがほぼ同時に発生する*のだが、マミズクラゲのクラゲはポリプの脇からいっこずつなのである。

ポリプからクラゲが発生する様子をアニメーションでご覧ください。オリジナルのスケッチは歴史的な論文(Payne1924)より。出来るだけ手を加えないようにしたのでちょっと見にくいかも。

*海水産のミズクラゲの生活環に関しては、moon-jelly氏のホームページ、「ミズクラゲの飼育日記」を参照されたい。


ポリプを飼う

ポリプは比較的簡単に飼育でき、増殖もします。
基本的には、水と餌とポリプがくっつく基質があれば育ち、増殖します。


容器

シャーレからガラスビン、水槽までなんでも。ただし小さいやつらなので、あまり大きい物は扱いにくい。

 

これが基本型。

改良版。パイプを一本、ろ材のなかに半分埋めてあるだけ。蓋に穴を空けエアチューブを通してある。

水温は20度から27度くらいが安全。水質は弱アルカリが良好。思い付いたときに上水を半分ほど交換(月に一度ていどで充分)。塩素に弱いので、水道水はだめ、24時間以上エアレーションした汲み置きの水か、液体の塩素中和剤を使用。(一般の金魚、熱帯魚などは、1日汲み置きでOKといわれているが、実は塩素はかなり残留している。)市販のミネラルウォーターなら心配無用。ただし、温度差にはご注意、手で触れて感じない程度、もしくは±2℃以下を目安にしている。容器にもポリプが付着していることがあるのでできれば洗浄はしないほうがよい。

水を極端に汚さないものなら何でも。淡水で洗浄したブラインシュリンプが面倒でなくてよい。一時、定着直後の小さいポリプに有効とおもえるのでゾウリムシを併用してたが、手間がかかるわりには効果がない。自然に発生する原生動物やワムシ類も餌になっているようだ。

基質

ポリプがくっつくところ。
私はセラミックろ材(筒状のもの)、サンゴ砂スライドグラスをつかいわけている。観察にも一番便利だったは、おもちゃの顕微鏡(学研・東急ハンズで数年前1100円で購入)についてきたプラスチック製のスライドグラス。シャーレにフラスチュールを移し、そこでポリプ化させたものも観察に適当、ただし維持は面倒。

給餌について

容器内にふ化したばかりのブラインシュリンプをほうり込むだけでもちゃんと捕食するが、食いそこなうやつがいたり、残ったブラインシュリンプが水を汚したりするので現在は別容器に基質ごとうつし、餌をたべ終わった時点で元の容器にもどしている。
ブラインシュリンプはポリプに比べると巨大ですが、12時間くらいかけてちゃんと飲み込むらしく、体がブラインシュリンプのオレンジ色になる。週に2回程度、ポリプが透明になったのを目安に与える。

ポリプの増殖について

健康なポリプなら、給餌後24時間~48時間くらいに子ポリプかフラスチュールを出芽する。フラスチュールは2~3日でポリプに変態して、半月から一ヶ月くらいでフラスチュールを出芽するポリプ群体に成長する。餌をまめに与えていれば、ねずみ算式に増える。

クラゲを発生させるには

水温の変化が引き金のひとつになっているのは間違いない。高温(30℃くらいまで)にさらしたとき、クラゲの発生が多くなる。クラゲが発生したあとはポリプはかなり弱ってしまうようなので、ポリプを増やしたいときは、逆に温度変化をできるだけ抑えるほうがよいと思われる。

注意点

気をつけなければいけないのは、他の生物の混入である。水が古ければ、アオミドロが簡単に発生し、ポリプが覆われてしまう。巻き貝が入れば、おそらくポリプは食べられてしまう。原生動物などでポリプに害を為すものがあると思われるので、ポリプが減ってくるようならば、容器の再セットを行った方がよい。


ポリプの採集について

どうです、こんな生き物、飼って見たくなったでしょ?ポリプはマミズクラゲが過去に発生した池なら必ず生息していて一年中採集可能。まずは挑戦するべし。


採集地について

クラゲ発生記録がある池等ならばほぼ確実。クラゲが見られない場所でも、ポリプだけが存在するという場所も多い(寒冷地等では特に)。クラゲの発生例については新聞などで報道されるのはごく一部であるから、めぼしい池の周辺で聞き込み捜査を行うのがよい。釣り人、近所の小学生らが情報を握っている。

実際の採集方法

「ポリプは水深の浅い部分の基物に固着しており、各地にきわめて普通であるが、その発見には熟練が必要である」(橋本1987)
というわけで、池のほとりの石ころ、ゴミなど手の届く範囲で拾って水ごと持ち帰り、のんびり虫眼鏡などで観察するのがお勧めの方法である。実際この方法でポリプを観察したことがある。小指の先ほどのサイズの小石10個ほどを採集後1週間後に観察したところ、そのうち1個に1個体を発見した。拾ってくる基物としては落ち葉や木の枝なども有効であろうが、しばらく放置すると腐敗がはじまり、ゾウリムシやらミミズやら、訳の分からないものが大量に発生するので(これまた観察すると楽しいが)無機物のみにとどめた方が無難であろう。ゾウリムシが沸くとすごい匂いがする。