正体不明の、ヒドロ虫ポリプ。わからないけど、わからないから魅力的。
目次
正体不明のポリプ
お客様から提供いただいたポリプです。
ヒドロ虫綱だということは、(自分でも不思議ですが)確信してるんです。でもそれ以上わからない。
ウラシマクラゲUrashimea globosaを飼育していた水槽に発生したということですが、一般的に知られているウラシマクラゲのポリプは有頭触手なのにこのポリプは糸状触手です。全体のフォルムとかは似てるんですけれども。ギヤマンクラゲも一緒にいたということですが、こちらはエイレネクラゲと同じようなポリプなので明らかに違うはずです。
非付着性
ほぼ浮遊しているか、四方八方に伸ばした触手の先で体を支えていたり壁につかまったりしています。
これポリプとしてのアイデンティティにかかわってきます。言語学的なはなしですが、もともと「くらげ」の定義は「刺胞動物と有櫛動物あたりの浮遊する形態」なので、この小さいのも「くらげ」ということになってしまうではありませんか。
ただ実際に海中で浮遊してるかは疑問です。こんなに目立つ生き物ならばプランクトン採集でみつかっているはずなので、小石の隙間みたいな間隙にうまいこと挟まって生きているのがメインではないかとも推理していますが、どうでしょうか。
2匹で仲良く
単体性のポリプで、口と反対の側、固着する一般的な種のポリプでいえば足盤側から出芽して増えます。
ただよく見ているとほとんどの個体がくっついたまま、2匹セットの状態になっています。写真の個体もそうですね。
このおかげで、本来口側だけに放射状にある5〜6本の触手が反対側でも全方向に向かっていて、同じヒドロ虫類のアクチヌラ型幼生を連想させます。浮遊することに適応しているのか、砂の隙間にうまくひっかかるためなのか不明ですが、仲良く協力しあってるのがほほえましくて見ているだけで幸せになります。
明らかに違う種ですが、Psammohydra nanna (一般的な英名なし、学名は直訳すると小さい(ナノサイズな)砂のヒドラぐらいの意味)っていうのが似てはいます。ただこれ、近縁種なのか、生態が似ているゆえの収斂進化なのかも不明です。でもちょっと、興奮するでしょ?
ブラインシュリンプで飼えるけど
本体が1ミリメートルぐらい、触手を入れても2ミリメートルぐらいの極小ポリプですが、自分と同じぐらいのブラインシュリンプを食べてくれます。少なくとも維持し続けるのにはシオミズツボワムシなどの特殊な餌とか小さめの(カリフォルニア産とかベトナム産とかの)ブラインシュリンプを用意して与える必要はありません。
ブラインシュリンプだけでは増えないというポリプに比べたら楽勝、のはずなんですが、思わぬ落とし穴があったのです。
止水で飼えない?
どういうわけか、シャーレ飼育がうまくいきません。
海水も毎日交換してあげて、個体密度もひかえめにしても駄目。
すぐ死んじゃう、というわけではなく、じわじわ弱って消えてしまうという感じ。そもそも餌与えたあとの換水も大変すぎます。なにせ食べ残しのブラインシュリンプとちょうど同じサイズで同じ色目なのでより分けてポリプだけ残すのは不可能ではありませんが、しんどい。
ポリプ育成水槽なら飼える、増える
幸いにもポリプ飼育用水槽ならば、飼えます。適度に餌を与えるだけで、換水もしばらくは不要で程よい水流がこのポリプにはちょうどいいみたいです。
餌は例によってブラインシュリンプを少量ずつ投入するだけですが、とにかく微量で。水槽をセットしたての、最初のうちは安定しないのでとくに気を付けてあげてください。
いつものようにポリプ水槽をセットしてしまうと、小さくてしかも浮遊しているポリプなので必ず行方不明になります。店主は今回はサンゴ粒をすごく少量、フィルターが浮き上がらない程度の2センチぐらいだけ投入して水槽をスタート、海水も他の水槽で安定している海水を濾紙で濾したもの(他種のポリプや微生物が混入しないように)を4分の1ぐらい、新しい海水と合わせて使用しました。
有性生殖の条件がわからない
つまりメデューサを出芽するか、直接卵や精子を放出する条件がわからない。
写真で見るとクラゲ芽みたいなのがありますが、これがクラゲ化するわけではないようです。
水流があるクラゲ水槽でしか維持できない都合のせいで、いろいろな条件に置けないというのもあるのですけれども。
温度とか水深とか海水濃度とか海水の変化とか、あるいはその組み合わせでメデューサ化するのかもしれません。もしくは、「メデューサが出るタイプのポリプ相」と「ポリプしか出さないポリプ相」の2フェイズがある種で、なにかの条件で二つのポリプ相が切り替わる、ということが起こるのかも。これまた推測でしかありません。
ウラシマクラゲである可能性
飼育していた水槽から出た、という状況証拠からなのですが。
現在(2023年)知られている限り、ウラシマクラゲについては「若いポリプだけが得られている」という表現があって戸惑うのですが、「プラヌラから得られる単体性の有頭触手のポリプが短期間にメデューサを出し続けてポリプ自体は消えてしまう」ということが起こるらしいのです。実際にポリプ発見者様のところでもこのタイプのポリプが得られて、子メデューサが出たとのこと。ちなみにこちらも固着しない浮遊性ポリプで、有頭であること以外はこのポリプと似ていたそうです。
迷ったら今すぐ購入
ご注文の際は、是非ともポリプ水槽つきセットをご検討ください。
どう間違っても売れ筋商品になりそうにないし、きわめて希少でありながら需要は限られている、悪夢のような商品です。いますぐ廃番になったっておかしくない。
FP-001 | 正体不明ポリプ非付着性(3個体) | ¥2,100(送料別) |
FP-021 | 正体不明ポリプ非付着性(3個体)+ポリプ水槽自作キット | ¥3,700(送料別) |
FP-121 | 正体不明ポリプ非付着性(3個体)+ポリプ水槽完成品セット | ¥4,600(送料別) |
FP-001Z | 正体不明ポリプ非付着性(研究・標本用50個体以上) | ¥1,1000(送料込み) |
今回ちょっと特別で増量版の価格設定を作っております。ご予算に余裕がある企業・研究者の方向けですが、いまある水槽にどばっと入れて様子を見る、なんて豪快なメソッドにもどうぞ。
楽しむだけならばまず3個体からのチャレンジをお勧めします。例によって再チャレンジ対象ポリプです。まずはいつの間にかうじゃうじゃ増えてる、という興奮と、いつか何かの拍子にメデューサにであうかもしれない期待をお楽しみください。