来た!っていわれても、店主が何を興奮してるか知らない人にはわかんないですよね。
これずっと飼ってみたかった、あこがれの生物のひとつだったのです。
目次
緑色のヒドラってのがいるんですよ
グリーンヒドラ(英名Green Hydra)っていうんです。
初めて知ったのは、リチャード・ドーキンス著の「利己的な遺伝子」(日高敏隆訳 紀伊国屋書店)でした。そのなかで、ほんの数行言及されてるChlorohydra viridissima (今は改名されて、Hydra viridissima)というのが今回の主役のグリーンヒドラだったのです。
だいたい5ミリぐらいで、今販売してるもう一種のヒドラよりもはるかにちいさくて、華奢な感じ。色はほんとに緑色をしていて、ブラインシュリンプを与えた直後にはちょっと黄色っぽくなりますが飼育環境によっては抹茶のような濃い緑色を見せてくれます。学名のviridissimaも「濃緑色の」という意味だとか。教材用生物としても、知ってるヒトは知っている、人気のあるヒドラだそうです。
どうして緑色してるかっていうと・・・
体内にクロレラをとりこんでいるからなんです。そう、単細胞性緑藻類のクロレラChlorellaですが、植物性プランクトンの、というよりは健康食品としてのイメージのほうが強いですね。クロレラ入りヒドラ。なんだか飼ってるだけで健康になっちゃいそうな気がしてくるのは店主だけでしょうか。
いやいや、ヒドラが餌としてクロレラを食べたんじゃないですよ。生きたクロレラを、そのまま体内にとりこんで共生しているのです。
共生することによって、ヒドラのほうはクロレラから栄養や酸素をもらって老廃物を吸収してもらってるわけで、やっぱり健康になっている?ようです。一方クロレラとしてはヒドラの老廃物やら二酸化炭素を受け取るだけではなく、光合成の場を提供してもらっている、というのがメリットになっているんでしょうね。しかもクロレラを餌とするような動物性プランクトンからも守ってもらえるわけです。普通なら天敵であるミジンコが返り討ちにあってヒドラに捕食されるところを、安全なヒドラの体内から見ているクロレラ。さぞかし溜飲を下げていることでしょう。仲良きことは、美しき哉。
普通のヒドラとは違う種
そんなに良いことづくめなら、普通のヒドラにもクロレラ(健康食品じゃなくて生きてるやつ)を与えればさっそく仲良く共生をはじめそうなもんですが、そうはならないようです。先述のドーキンスの著書でもグリーンヒドラ以外の種ではクロレラなどの藻類が「寄生」されると病気になっちゃう、と書かれています。どういうわけかグリーンヒドラH.viridissimaという種だけがクロレラと仲良くやっていけるらしいのです。ちょっと軒を貸してやるだけで酸素も栄養ももらえるというのに耐えられずに病気になっちゃうというのも不思議、旨くやっていける種というか、組み合わせがあるというのも不思議。結婚生活みたいなもんでしょうか。
一方光合成をする藻類のほうは、結構ヒドラやクラゲなどの刺胞動物にとりつきたがっているようですね。渦べん毛藻類の褐虫藻がサンゴや根口クラゲ目のクラゲと共生してるのは結婚生活がうまくいってるほうの例ですね。これも緑藻類ではありませんが原生動物のヒドラコナミドリムシChlamydomonas Hydrae)というやつはべん毛を使ってヒドラの身体の表面に取り付くとかで、こっちはヒドラが迷惑してるパターン。
飼育方法(温度にちょっと注意)
飼育方法は普通のヒドラの飼い方おおむねそのままで大丈夫。注意したいのは温度。
低温になると有性生殖が始まってしまうのでなんらかの保温をしておいたほうがよさそうです。22℃から27℃ぐらいが無難です。熱帯魚の水槽をお持ちの方なら、水槽の上に置いておくだけでちょうどこれくらいの温度で保温できちゃいますね。
餌は水洗いしたブラインシュリンプを与えて、食べ終わったころを見計らって換水します。出芽してくる個体がこれまた小さいのですが、ちゃんとブラインシュリンプを食べてくれるようです。
おっと、忘れるところだった。光をあててやってください。小さい容器なら室内光程度で充分のようです。直射日光では強すぎますし、水温が上昇しすぎます。
こんな手抜きの飼い方も
クロレラから栄養をもらってるから絶食に耐える、というのも聞いていたのでさっそく断食実験をやってみましたが、1ヶ月ぐらいではまったくやせたような気配がありません。さすがに出芽による増殖はしていませんが、普通のヒドラが餌を絶って数日でもどんどん縮んでいっちゃうのに比べるとかなりしぶとい生物です。
これはもう、夢のズボラ飼育に挑戦するしかありません。
透明な密閉容器に水を8分目とヒドラを入れて、室内の明るい場所に置きます。絶対に直射日光はあたらないようにすること。職場の机の上において仕事の合間の息抜きにちょっと観察する、なんて贅沢でよろしいんじゃないでしょうか。あまり容器を動かしたりすると身体を縮めたりしてエネルギーを使っちゃうのでご注意。
餌は月に一回か二回、顔色を見ながら。あまり頻繁に与えると増殖しちゃいますからね。ついでに換水もします。飼育水は塩素抜きした水道水を同じ水温になるように同じ場所に置いて準備しておきます。少量ですから、水道水のかわりにミネラルウォーターでもいいんですが、開封したてだと溶存酸素量が不足してたりしますから、飲みかけが室温までぬるくなったのをちょっとシェイクしてから使うことにしましょう。
丈夫な植物を入れてもいいですが成長が早すぎたり枯れて水をわるくしないものに限ります。マリモなんてちょっと相性よさそうですね。
容器は100~200ccくらいがよいかと思います。店主はよくビタミン剤が入ってたガラス瓶だとか長野なめ茸の空き瓶なんかを愛用していましたが、最近見つけたぴったりの容器は乳酸菌飲料の120ccのPETボトル。100円ショップでお好みの容器を探していただくのも楽しみでしょう。
産卵も「見どころ」
実は、このグリーンヒドラ、実は雌雄同体で、しかも同時に1個体に両方の生殖巣が出来るので有性生殖の観察にももってこいなのです。
上の写真でも生殖巣が出来かかっていますね。口に近いほうが精巣、足盤に近いほうに卵が出来かかっているところです。卵はこのまま成長し、まっしろな球形ができあがります。ただし、条件によっては精巣だけとか卵だけが形成されることもあるそうです。
ヒドラの有性生殖についておさらいすると、クラゲ世代をもたず、直接卵と精子を本体の表面に作るという方法で次の世代をつくります。しかもその卵も大きいのを一つか二つ、ごろっと産むのです。卵がヒドラにくっついてる間に受精が行われ、その後卵はヒドラから離れます。これが実は耐久卵で、乾燥や低温に耐える卵。自然では低温だったり水場が干上がってしまう冬の時期をこの卵の状態で生き延びるのですね。ただし休眠期間は3ヶ月~数年にわたり、いつ孵化するかも予測がむずかしいとのこと。私も観察したことはありません。
さて、ここからがグリーンヒドラならではの見どころなんですが、他種のヒドラやクラゲポリプの多くは同一クローンはすべて雄だったり雌だったりします。有性生殖の一部始終を観察するには日ごろから2系統以上の(しかも普段は見分けのつかない)同種のヒドラを混ざったりしないように気を付けながら維持する必要があるわけです。性転換をする種もあるそうですが結局2系統以上を維持しなきゃいけないのは同じことで、運が悪いと全部オスに変わっちゃったりする可能性もあって大変。そう、普段のヒドラ見たってオスメスわかりっこないのです。ところがこのグリーンヒドラならば、1系統飼っているだけで楽しめちゃう。タイミングがよければ顕微鏡下で受精の瞬間や卵割の初期も観察できるかも!ちょっと心配なのは、自家受精になっちゃうので・・・耐久卵が出来るところまでは観察してるので、ちゃんと孵化するかどうかは、お楽しみ。
雌雄同体とクロレラの関係?
ちなみに、肝心のクロレラは、卵子の中に入って次の世代に伝えられるそうです。
メスのヒドラにとりついた奴らは無事に卵子に入りこんで次の世代のヒドラの中で増えつづけることが出来るわけです。ところがどっこい、たまたまオスのヒドラの身体に入りこんだクロレラは無性生殖でのみ増殖するだけで、冬がきたら宿主であるヒドラといっしょに、子孫を残せずに死に絶えちゃう。
そう考えるとクロレラにとっては、ヒドラが雌雄同体で同時に卵子と精子をつくるというのは都合がいいことのようです。さらに言えば、自分が住み着いているヒドラには卵だけを作ってもらって精子は赤の他人に提供してもらう、というのがもっとも「利己的」ということになりますね。実際にそんな操作をしてるのかもしれませんぞ。クロレラがメス化物質を出していて、ヒドラがそれに対抗するオス化物質を出すのでバランスよく同時に両性の配偶子を作っているのかも。実験的にクロレラを全部とりのぞいたヒドラはみんなオスになったりとかね。
グリーンヒドラ飼育セット
というわけで販売です。
5匹からの販売にしてみました。お店の方で個体数に余裕があるときは、ちょっと増量してお送りします。
学校向けパックは顕微鏡など拡大して観察するには普通のヒドラよりもお勧めです。
H-004 | グリーンヒドラ (5個体 以上)生体のみ | ¥1,000(送料別) |
H-024 | グリーンヒドラ (5個体以上 )+飼育セット | ¥2,000(送料別) |
E-004 | グリーンヒドラ学校用 (20個体以上 要予約) | ¥2,200(送料別) |
H-024の飼育キットの内容は生体の他の付属品は以下の通りです。
・ブラインシュリンプの卵(ヒドラの餌)
・ブラインシュリンプ用スプーン
・ピペット
・ミニピペット
・シャーレ
・ミニシャーレ
・塩素中和剤(水道水のカルキ抜き)
学校向けにはお試しのヒドラも企画してますので、こちらもあわせてご検討ください。