サカサクラゲのプラヌロイド

サカサクラゲCassiopea ornata は、鉢クラゲ鋼根口クラゲ目のなかでもちょっと変わったクラゲ。クラゲのくせにほとんど泳がず、普段は水底にサカサにはりついて暮らしているというヘンテコなやつです。でもそのポリプ世代もこれまた変わってるんだな。


サカサクラのポリプとプラヌロイド
サカサクラのポリプとプラヌロイド

サカサクラゲって、なに?

サカサクラゲは、タコクラゲやエチゼンクラゲと同じ「根口クラゲ(ねくちくらげ)」の仲間のクラゲ。
普通のクラゲとは上下逆さまになって、触手を上に、傘のほうを下にして水底に沈んでいるのが名前の由来です。
サンゴと同じく褐虫藻を共生させていて、餌だけではなく光合成でも栄養を得ています。傘は平らでちょっとへこんでいて、これで水底や水槽のガラス面などに吸盤のようにくっついているのが普段の姿。
一見してイソギンチャクみたいに見えますが、ちゃんと傘の周りの部分をを普通のクラゲみたいに動かして泳いだり、底にくっついたまま水流を作って餌を集めたりするんです。
ポリプはミズクラゲに比べると大型で触手は32本、しかも、柄のような部分があって、まるでチューリップやユリのような、大輪の花のような派手な印象を受けます。
クラゲとしては丈夫で、ポリプだけでなく成体のメデューサも飼いやすい、初心者向けのクラゲです。


プラヌロイドとはなにか

なんだかSF的な名称だけど、知ってる人はかなりのクラゲ通でしょう。「~oid」というのはラテン語で「~のような」という意味で、その名のとおりプラヌラのようなもの。プラヌラ様幼生とも訳されています。受精卵から発生するプラヌラとは似て非なるもので、見た目は似てるけどその出来方と大きさがずいぶん違います。
サカサクラゲを含む根口クラゲ目では、ポリプが無性生殖によって直接プラヌラ(にそっくりなもの)を生み出すことがあるのです。


本家「プラヌラ」についての復習

プラヌラplanulaはギリシャ語で放浪する者の意味。クラゲの受精卵はほぼ等割で途中まではウニやヒトの発生段階とほとんど変わらないのだけれど、原口陥入後の嚢胚期に繊毛が出来て、水中を活発に泳ぎまわるようになり、これすなわちプラヌラというわけです。普通はこの状態が数日続き、その間にポリプとなるべき場所を見つけて固着生活期に入るのです。クラゲの一生の中でもいちばん短い期間で、クラゲ飼ってるひとでもなかなか観察できないというのが普通。私はまったくの幸運でミズクラゲとマミズクラゲだけでは見たことあって、これはちょっと自慢なのです。


サカサクラゲの生活史

一般的なクラゲの生活史と比べて見てください。
左上が有性生殖世代、右下が無性生殖世代。赤い矢印の部分が問題のプラヌロイド。
ポリプは分裂せず、プラヌロイドの出芽のみで無性的増殖を行います。ストロビレーションのとき、一個のポリプから一個体のみのエフィラが発生するのもサカサクラゲの特徴。


プラヌロイドはどうやったら見られる?

普通にポリプを飼ってると、毎日のように普通に見られます。
ストロビレーションしてないときのポリプはまさにプラヌロイド生産マシーン。餌を食べている限りプラヌロイドを出芽し続けます。場合によっては一度に二ヶ所から同時に出芽したり、離れる前にその根元がプラヌロイド化して2つ以上のプラヌロイドが数珠つなぎになったりすることも。最初はちょっとした膨らみですが、だいたいその日のうちにラグビーボール状となり、ポリプを離れます。
サイズは1ミリくらいですが、肉眼でも鑑賞可能。繊毛でゆっくり回転しながら漂うように泳ぐさまはかわいらしく、見てると時間のたつのも忘れてしまいます。数日のうちに変形が始まり、短い触手のような構造が出来始めたかと思うとどこかに定着し、可愛い小さなポリプとなります。ポリプは餌を与え続ければ急速に成長し、数週間で自らプラヌロイドを生み出すようになります。


サカサクラゲポリプ飼育のコツ

ポリプの飼育もいたって簡単。ただし、ポリプ、メデューサともに低温には弱いようなので、摂氏15度以上を保つようにします。
シャーレで飼育するときは、ほぼミズクラゲと同様で大丈夫ですが、海水を交換するときにプラヌロイドを一緒に捨ててしまわないように、もうひとつ容器を用意していったん捨てる海水をためて、そこからプラヌロイドを拾い出してもとのシャーレに戻します。
手間をかけない飼育用にはポリプ育成水槽の利用をオススメします。これなら日常の世話は餌を与えることと蒸発した分の淡水を足すだけ、数ヶ月に1回の海水の交換のときに、捨てる海水の中のプラヌロイドを見つけるだけで大丈夫。ただしミズクラゲとちがってサンゴ粒の隙間でもエフィラを出してしまうので、エアレーション(ブクブクのこと)は弱めにして、エフィラをみつけたらすぐに救出してあげてください。


サカサクラゲのエフィラを見るには

これは・・・難しいというか、簡単というか。ポリプを飼育しているといつの間にかクラゲがでてくる、という感じ。すくなくともミズクラゲの場合のように、水温を下げるだけでストロビラ化しちゃう、というほど単純ではありません。 プラヌロイドを出しながら成長してかなり大きめになったポリプが、水温や水質の変化、餌の量の変化などがきっかけでクラゲ化するらしいことはわかっているのですが、どうもつかみきれません。
それも、同じ条件のはずのシャーレのなかから、1匹か2匹だけクラゲを出す、というパターンが多いようです。1つのポリプからは、かなり大きめ(ミズクラゲ等に比べてですが)大き目のエフィラが1匹だけでてきます。
サカサクラゲは成体のメデューサの飼育も比較的簡単です。ミズクラゲのように気泡が傘に入る事故もあまりないし、餌はアルテミアだけで充分。褐虫藻を共生させているので充分な光を与えることがポイント。最初のうちはコップなどで飼い、大きくなったら底面フィルターを使用した水槽にうつしてあげましょう。
ちなみに、常時ではありませんが、当店でも販売しています。 サカサクラゲのエフィラ


サカサクラゲのこと、いろいろ

  • 学名Cassiopea ornata. はE.ヘッケルの命名。
  • 同属に数種があり、同定は困難。実はうちにいるサカサクラゲもC.ornataかどうかはちょっとアヤシイ。
  • 属名のCassiopeaはギリシャ神話に登場する女王の名。アンドロメダ姫のお母さん。
  • 星座のカシオペア座は北極星を見つけるときに使うW型の星座で、椅子に座った姿で北極星の周囲をひっくりかえりながら回るのが学名の由来になってるらしい。
  • 英名はマングローブ・ジェリーフィッシュ。文字どおりマングローブの林の浅瀬に生息する。日本では九州以南にいる、熱帯性のクラゲ。
  • 飼育適温は20から30℃くらい。ポリプはもうちょっと低温に耐えるみたい。
  • 分類は鉢クラゲ鋼根口クラゲ目サカサクラゲ科。
  • 同じ根口クラゲ目にはタコクラゲ、カラージェリー、イボクラゲなどがいる。傘径1メートル、重量100キログラムを超す食用のエチゼンクラゲもこのグループ。
  • 根口クラゲ目の特徴は、本来の口が閉じて根口が開く、傘の周囲に触手がない、褐虫藻を持つものが多い、など。
  • 根口とは、口腕の癒合により本来の口にあたる部分が閉じて、代わりに口腕の各所に多数の小さな口が開いて微小なプランクトンを吸入するようになったもので、胃腔へ接続する管が植物の根のようになっていることから。
  • 根口の発達にともなってもうひとつ、面白い構造が見られる。ミズクラゲの性腺下腔にあたる4つの孔が中央で通じ、口腕の部分と傘は、4本の柱状の構造で繋がっており、サカサクラゲでも観察できる。良く見ると柱の間から胃腔や生殖腺がむき出しになってるのがわかる。
  • 共生する褐虫藻はプラヌラの時にはもっておらず、ポリプの時代に経口的に獲得するものらしい。
  • サカサクラゲの口腕は通常4本だが根元で二つに分かれ8本に見える。縁弁数は8つ、胃腔も4つ。ときどき3や5の倍数のものも見られるが遺伝的なものではないらしい。
  • 刺胞毒は弱い方だが、それでも人によっては痛みや痒みを覚えることも。野外で触るときには、カタチが似ていて猛毒のウンバチイソギンチャクにご注意。
  • ポリプの触手は32本で、鉢クラゲのポリプとしては多い方。
  • ストロビラ化のキッカケは温度変化によるが、ミズクラゲとは逆で高温になることがひとつのトリガになってるらしい。
  • ストロビラから一度にひとつのエフィラが出るのをモノディスカル・ストロビレーションという。Mono は単一、Discは円盤の意。おなじみミズクラゲはポリディスカル・ストロビレーション。
  • ときどき褐虫藻が無いか少ない、真っ白いクラゲも出てくる。それでもちゃんと餌を与えれば育つ。褐虫藻を持つものの方が餌の要求量は少ないらしい。
  • 雌雄異体。オスメスは受精の時点から決まっている。外見からの判断はポリプ期はもちろん、メデューサでもちょっと困難。
  • 成体は最大で直径20センチくらいになる。
  • 文中ではポリプpolypとして統一したが、鉢クラゲ綱の仲間のポリプは特にスキフラscyphulaと呼ぶことがある。

プラヌロイド売ります


販売はプラヌロイドとポリプとセットの形態で。プラヌロイドからポリプに育って初めてプラヌロイドが出るのを観察するのは、ちょっと興奮します。
ポリプだと、再固着することがないので飼い難くなっちゃうのですが、期間限定でエフィラとポリプとプラヌロイドが一緒に見られるセットもご用意しました。
P-011の飼育セットの中身は以下の8点。到着してすぐ必要なものを少量ずつ用意しました。

  • 観察用シャーレ
  • ミニシャーレ
  • ブラインシュリンプの卵(クラゲの餌)
  • ブラインシュリンプ用スプーン
  • ピペット
  • ミニピペット
  • 飼育用海水(500ミリリットル、すぐ使えます)
  • 人工海水の素(換水用1リットル分)
  • 塩素中和剤(水道水のカルキ抜き)
P-001サカサクラゲのプラヌロイドとポリプ(各1個体以上)¥1,400(送料別)
P-011サカサクラゲのプラヌロイドとポリプ(各1個体以上)+飼育セット¥2,900(送料別)
P-021サカサクラゲのプラヌロイドとポリプ+飼育セット+ポリプ水槽自作キット¥3,200(送料別)
P-121サカサクラゲのプラヌロイドとポリプ+飼育セット+ポリプ水槽完成品セット¥4,100(送料別)
S-001サカサクラゲエフィラ+ポリプ+プラヌロイド(各2個体)¥2,500(送料別)
S-011エフィラ+ポリプ+プラヌロイド(各2個体)+飼育セット¥4,000(送料別)

くわしくはご注文のページにて。

クラゲとポリプの販売サイトです。