クラゲのポリプを楽しむ(基礎知識編)

エイレネクラゲの一種?のポリプ。

 

クラゲの本当の魅力

クラゲブーム、なんてことがいわれています。水族館での展示から始まって、癒し系ペットなどとしてすっかり定着したようです。従来は飼育が難しいとされていたのが数年前に専用の水槽が市販され、ペットショップなどにもクラゲが置かれるようになりました。しかし、その多くはすでに成体となったものを購入し寿命がつきるまで生かしておくという「切り花」的な飼育方法ともいえます。
じつはクラゲの多くはポリプと呼ばれる底性生活期をもっていて、この間は無性的な分裂により増殖しています。たいていの種ではポリプは丈夫で飼いやすく、クラゲの生活史のなかでは本当の魅力とも言える部分でもあるのです。


ポリプってなんだ?

ちょっと専門的にいうと、「刺胞動物の着生生活に適応した形態の総称」ということになります。刺胞動物とは、かつて腔腸動物といわれていたグループの大部分でクラゲのほかにイソギンチャク、ヒドラ、サンゴなども含む、そう、おなじみのイソギンチャクやサンゴなども「ポリプ」、というわけなのです。
語源はギリシャ語のpolypois(「多くの足」の意)で、もともと蛸(タコ)を現す言葉。触手を広げた様子が逆さになったタコに見えるから、ということなのですが。


じゃ、「クラゲ」は?

ちなみに「クラゲ」は「刺胞動物の浮遊生活に適応した形態と、有櫛(ゆうしつ)動物(クシクラゲの仲間、ポリプ型をもたない)の総称」。クラゲ類という分類はないことに注意。クラゲでいる期間を指して、「クラゲ相」と呼ぶことがあります。漢字では水母相と表記し、海月相と書くことは無いようです。
さて、ここでちょっと約束事を作っておきましょう。このHPでは、固定相を指す「ポリプ」に対して浮遊相の「クラゲ」を指す用語として、英語の
「メデューサ」(medusa、ギリシャ神話の、髪の毛がすべて蛇という怪物の名より)
という語を使うことを提唱し、以降この用語を併用することで混乱を避けることにしましょう。
一方「クラゲ」、といったら生活環の一部ないし全部にメデューサの相を持つ種自体、あるいはポリプとメデューサの両方を含む用語といたします。
なんでかって、まずややこしいことと、紛らわしいことが一番ですが、なんといっても、ポリプ飼ってるだけで
「私はクラゲ飼ってます。」と堂々と言えるではないですか。
そんな訳で、ご注文の際など、このルールで是非お願いいたします。


一般的なクラゲの一生(生活環)のイメージ

さて、そういう訳でポリプとメデューサの違いについてはご理解頂けたと思うのですが、一つ誤解のありませんように。
ポリプはメデューサの幼生ではない、ということ。下の稚拙な図でご覧いただくのはミズクラゲの一生の模式図ですが、ポリプはポリプで一生を終わり、ポリプが新しい生命としてのメデューサを産み出している、という見方をしていただきたいのです。あえて言うなら、ポリプの幼生期は「プラヌラ」で、メデューサの幼生期が「エフィラ」ということになります。
どうしてもこの辺を理解したり説明したりするには脳ミソのアクロバットが必要なのですが、ミズクラゲの場合に限って言えば、植物、とくに多年生の植物にたとえるとちょっとわかりやすくなります。プラヌラが種子、ポリプが葉や幹や根(栄養器官)、メデューサは花(生殖器官)なのです。花(メデューサ)の命は短く、ポリプは事実上永遠に生きるというのも似ています。ただし、こちらの「花」は自活能力があるうえに遊泳能力があるのですが。
じゃあどうして、という質問になると更に難しくなりますね。クラゲと我々ヒトとではあまりにも分類学上の「遠い枝」に位置してるからだ(最近はクラゲの方が「下等」だとか「原始的」だとは言わない)、というのは答えにはなりませんね。まあ、これが奴らなりの、生き残る為のサエたやり方なのであって、事実数億年を生き残ってきたことで証明してる、というので勘弁してもらいましょうか。

代表的なクラゲの一生
左上からほぼ時計周り
1.お馴染みのクラゲ(メデューサ)。雌雄異体で卵子と精子を海中に放出(種によっては体内受精)
2.受精卵は分裂をくりかえし体表に繊毛(せんもう)をもつプラヌラ(planula)になる。
3.プラヌラは海底などに付着し、触手を伸ばしてポリプpolypとなる。この段階をとばす場合もある(水色の点線)
4.餌を食べて成長したポリプ。
5.ポリプの増殖。ストロン(植物のランナーのようなもの)を横に伸ばして増えたり、直接分裂したり、プラヌラのような幼生(茶色の点線)を放出したり、いろいろな方法を使い分ける。
6.クラゲ化の前段階。ミズクラゲ等ではポリプがくびれてストロビラと呼ばれる形態を取る。
7.クラゲの遊離。ひとつのポリプから何匹ものクラゲが次々に離れる。一番下の根っこはまたポリプに戻る。まさに無限増殖。
8.クラゲの赤ちゃん。絵はミズクラゲで、エフィラと呼ばれるもの。
9.エフィラは餌を食べて成長し、親のクラゲになる。絵は一般的なミズクラゲの仲間(鉢クラゲ鋼)をあらわしています。種類によってはかなり差があり、これまたクラゲの魅力のひとつ。

補足:ミズクラゲをもって一般的な、としましたが実は例外の方が多くて、その生態は様々。たとえば近縁のサカサクラゲやタコクラゲの仲間はストロンをださず、プラヌラ的幼生によってのみ増え、一度に出すエフィラは一つだけと決まっています。また種類では最も多いヒドロ虫鋼のグループではクラゲはポリプの脇から出たり、ポリプにあたる世代が浮遊生活をしたり、多数の個体が集まった分業制があったりそれはもうバラエティにとんでいてここでは書ききれません。


ポリプの飼育方法(基本編)

水槽の準備が無くてもちょっとした容器があれば飼えるのがポリプの魅力。
ポリプはすべて肉食なので、餌は孵化させたブラインシュリンプを与えるのが一番。
注意点は、餌のブラインシュリンプを与えたあと、かならず水換えを行うこと。ただ食べ残しを取り除くだけではなく、ポリプがいったん飲み込んで消化しきれなかった排泄物を口から出したタイミングで海水を取り替えることが肝心。目安としては、4時間後くらい。蒸発によって海水の濃度が変わったときも、淡水を足すのではなく海水の交換で対処すること。

まあ容器なんかはタッパウェアでもなんでもいいんだけど、どうせならガラス製のシャーレやピペット、洗浄瓶などちょっとずつそろえて実験室の雰囲気を味わうのも贅沢でよろしい。
ポリプをシャーレで飼う最低限の用具と、ポリプをセットにしたものがこちら、「ミズクラゲポリプ育成用キット」


ポリプの飼育方法その2(ものぐさな人向け)

餌をやるだけならともかく、水換えしなきゃならないの?という人にはこちらがオススメ。
ポリプ用に、ろ過装置をそなえた海水魚用の水槽を作ってしまえば、換水は2ヶ月に一度くらいでもかまわない。
市販の金魚用セットなどでも充分すぎるぐらいだが、水質安定の為ろ材にサンゴ砂を使用するのがよい。
ちなみに、当店開発商品「ポリプ育成ミニ水槽キット」はこれを究極まで推し進めたものなのです。


ポリプの飼育方法その2(超上級編)

飼育法といえるのかどうかわかりませんが、海水魚の水槽にはどこからともなく紛れ込んでクラゲが発生することが良くあります。私自身もヤドカリを飼っていた60センチ水槽に1mmほどのクラゲが湧いたのを経験しています。どうも拾ってきた貝殻にポリプがくっついていて増殖したようです。
そんなわけで、ポリプが付いていそうな石を拾ってきて水槽に入れておき、勝手にクラゲが発生するのを待つという気の長い話、海水魚店で売っているライブロックなども有望、これを称して「石を飼う」というとか。これぞ達人。
私がクラゲに惹かれる原因となったマミズクラゲもある日同様に淡水の水槽に発生したことが全ての始まりだったのです。


ポリプの飼育はこんなに簡単

表にしてみました。
しかし、一方でそれなりの覚悟は必要ですぞ。なにせ、飼い始めちゃったらもう永遠に生きてて、おまけに増殖します。メデューサが出ておしまい、という生き物ではないのです。

メデューサ(クラゲ) ポリプ(同じクラゲの底棲生活期)
水槽 45cm~60cmくらい、40リットル以上あった方が望ましい。
専用のセットやろ過装置の改造も必要。
最小はシャーレでもOK。500ミリリットルもあれば御の字。
保温・保冷 種類によってたいてい、夏場の高水温か、冬場の低温に弱い。 普通は室温でOK。種類によっては、卓上ランプで照らす程度。
夏に弱い種もあるが、大丈夫、冷蔵庫にいれて絶食させちゃえばよい。
給餌 毎日1回、できれば2回。サボるとどんどん縮んじゃう。 維持するだけなら週に1~2回、最長2ヶ月くらいは断食可能。旅行中も安心
水質 老廃物にシビア。充分なろ過装置をセットするか、こまめに水換えが必要。 クラゲに比べればいい加減でよい。
寿命 タコクラゲなど多くはわずか数ヶ月。例外的に長いものでミズクラゲの1年半、サカサクラゲの4年。 ほとんど不死
入手 市販のクラゲを買うか、海で採集。 ほとんど市販されておらず、採集も意外とむずかしく入手は困難。そのわりに海水魚水槽で勝手に湧いたりするし、郵送が効くので愛好家同志で交換しあうことも可能。ご心配なく、当店MyAQUAも廉価に配布いたします。
捕獲による生態系への影響 多くの種では野生のクラゲを業者が採集して販売しているのが現状。今の所飼育ブームのせいでクラゲが減ったというはなしはないけど、人気種のタコクラゲ、カラージェリーあたりはちょっと心配。 アマチュアが楽しむ分くらいは水槽で増殖でき、自然の生態系に負担をかけません。これは生物飼育の本来あるべき姿ではないかな。
ただし、飼い始めたら最後まで責任を持って。海への放流は絶対にしないこと。
魅力 美しさ。優雅さ。たしかに苦労の甲斐はあります。 増殖の面白さ、再生の様子、そしてなんといっても、クラゲへの変態。そう、ポリプを入手すれば永遠にクラゲオーナーなのです。

どうです?ポリプって、おもしろそうでしょ?
しかも、クラゲによってそれぞれポリプも違うんです。性格もさまざま。
こんなのを飼ってみませんか?
最初のオススメはミズクラゲのポリプ。ご注文いただければ郵送でとどきます。

クラゲとポリプの販売サイトです。